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EP6名場面集


「・・・・・・違いねぇですな。お嬢だって、12年前の気の毒な一件がなけりゃ、今頃は笑顔が似合うキュートな女の子だったかもしれねぇ。」

「失礼ね。今だって充分キュートだってば。」


「お、お館様…、せめて一口、お口に運ばれるわけには参りませんか…? ベアトリーチェさまが、お館様のためを思い、こしらえたものでございます…。」

「それはあまりにも酷ぅございます…! 気持ちは感謝する、大いに結構でございます。しかしそれをせめてッ、一口、お召しになる形ではお示しできませんか…!」

「そういうわけには参りませんっ。大切なゲームに、少しでも力添えしたいベアトリーチェさまが、せめてこのような形でもお力になりたいと、頑張られた差し入れでございますッ。それを、一口さえせずに下げろとは、女を馬鹿にするにも程がございますッ!!」

「お館様も男ならば! 女の手作りの差し入れにせめてどうか一口で結構でございますので、お手をつけて下さいまし!! 女の気持ちを踏み躙ろうというおつもりでしたら、この熊沢、殺されたってここは退きませんよ、えぇ退きません!!」

「そういうわけには参りません!! お館様ッ、これに毒でも入っているとお思いですかッ?!」


「ヱリカも………魔法が…使えるの…?」
「ね? 魔法でしょう? これが。」
「う、………………うん!!」
「ってことはつまり、」
ヱリカがにっこりと微笑む。……真里亞と心が通じ合った…。

「ワケねェえぇええええぇええだらァあああぁアぁああああぁ!! あんたが目ェ瞑ってる間にカップ開けて、飴玉放り込んだだけじゃないですかァあああぁあ!! これが魔法? こんなの三流手品でしょうがぁあああヒャッハぁああああぁあッ!!! これがまず、探偵としての青き真実ですッ。 そして重ねて、真実の魔女としてくれてやりますッ、赤き真実ゥぅああああぁあぁあああぁああぁあああ!!!」
 あんたの言う、飴玉の魔法はただの手品ッ!!
 ベアトリーチェとかいう、エセ魔女が魔法と称して見せた、単なる手品!! 
 つーかあんた、この程度の手品で騙されるわけで? あんたの主観が語る魔法なんてね、まったく信用出来やしないッ!!!
あんたが魔法だと思い込んでるものは全てッ、あなたがタネに気付かないだけの手品に過ぎません!! 魔法なんてあるわけないッ、存在するわけなぁあああぁあぁぉおおおい!!


・「そ、そんなことはありませんっ。どんなおしわが出来ようとも、我が主の美貌は完璧ですっ。」

・「望むところです!! お箸お箸ッ、ハアハア!」

・「へぇえええぇえ、それでぇえええぇえぇッ?」

・「グッド!! これがベアトリーチェの魔法だと言うんですね?! ドラノーぉおおおルッ!!
 ブ チ 殺 れ ッ!!!」

・「グッド!! 封印をッ、破りますッ!! ビリビリッ、バリバリッ!! ふ、ふひひひひひひひひひひひひッ!!!」

・「……さぁ、……開けますよ……? 見せて下さい、……戦人さんの、……赤裸々なシナリオを…!! ふひひははははぁアぁあああああぁあッ!!!」

・「カマぁあああああぁああぁン、戦人ぁあああああああぁああああ!!」

・「チェーンが破られてないのに姿を消せたなんて最高、カッコイイッ、不思議ッ抱いて!! きゃぁあああああああああぁあああッっはっはぁああああああ!!
ッきるワケねぇええぇえええええぇえええぇ!! 出来るワケねぇえええんですよオ!!これが出来たらまさに魔女!この密室から姿を煙のように消せたら、認めるしかないッ!魔女の仕業だ、ってぇええええ!!!」

・「でもダメぇええぇえぇウェえええぇえええぇッウェッウェッウェぇええぇえぇえぇぇ!! これをッ、見て下さいよぉおおおぉおッ、ガートルードォ、コーネリアぁああッああああぁあああぁあぁああッッ!!」

・「ブワッっとゥら、すわぁあんッ!! こォれウォッ、見て下さぁあああぁああぁい!! なぁああぁぁぁんでぁ
ああぁああ?!」

・「ほらッ、これッこれッ、何か扉に貼ってありますよっぉおおおぉおォ?! これは何?! これは何ッ?! ね
ぇ、何、ガートルードぉおぉおおおおお?!」

・「オゥイエエエェ!!! ベリーギュゥウウウウッドゥ!! ワンモア!! コッチの扉のゥわぁああああぁああ
ぁあああ?!?!」

・「Oh、very GOODッ!! さぁ、お二方ッ?! そしてどうぞ、お茶の間のテレビの前の皆さんもご覧
下さいッ!! 双方の部屋の扉ッ、ガムテープの封印をどうぞご覧下さい!! さぁ、そのどちらもどうです
か…?! 破れてますか? 破れてませんか…? さぁ、高らかに赤き真実でお願いしますッ!!」

・「はッ、はいッ、我が主ィ、ば、戦人の手首で孫の手ッ、主に背中ボリボリッほッホアああぁあぁああぁぁああぁあぁぁ!!」

・「あなたのことが好きです。」

・「ありがと。」

・行こ、古戸ヱリカ。

 探偵、古戸ヱリカ!


「……愛だの、……約束だの。……静かにゲームを終わらせて、安らかに眠らせる? ……そんなゲロ臭い終わり方、誰が望んだってのよ。」
「私はね、そんな終わり方のために、戦人に助言を与えたわけじゃないのよ。……妹を背中で挽き肉にしてやったわ。両親や親族を何度も何度も惨たらしく殺させてやったわ。それは全て、ベアトに対し、怒りの復讐を掻き立てるためよ?」
「それが、…………この終わり方は何…? 私の勝利? とんでもないッ、……戦人は、私もあんたも喜ばせない勝利を手にしたわ。…私はね、ベアトリーチェがずたずたのぼろぼろに引き裂かれるところが見たくて、はるばるこんな辺境までやって来て、気の遠くなる退屈な時間に耐えてここにいたのよ。こんな、………腐りかけのヨーグルトみたいなカケラを啜らされるためじゃないッ!」
「あぁん、ご立腹の顔もステキだわ、ベルン。……なるほどね、それでせめて最後くらい、口直しが欲しかったわけね。」
「全部、前回のゲームでドジを踏んだこの馬鹿駒のせいだわッ。お前のせいで、数百年ぶりに楽しめそうなゲーム盤がッ、全てッ、台無しよ…!! クズ、ゴミ、カス!!」
「…もッ、……申し訳ありませんッ、…我が主……。……必ず、勝利を捧げますから、……どうかお許し下さい……。」
「前回、探偵権限まで使って勝てなかったあんたが、どうしてゲームマスターにまで至った戦人に今回、打ち勝てるっての…? 探偵権限があったって、あんたに勝ち目なんかないのよ。……ならいっそ、いらないじゃない?」
「そ、……それは…………、」
「確かに、元々勝てないんじゃ、探偵権限はいらないわねぇ。より確実に負けるだけだけど。」
「だからこそ、より最悪な状況であなたが勝って見せたなら、……それこそ私に相応しい奇跡だわ。そこまでして初めて、私はあんたを許せる。」
「は、はいっ。……必ず、…その奇跡をお目に掛けて見せます…!」

「できるわけねーだろ、ゲロカス。」

「あんたに出来るのは、最悪のゲームに最悪の罰ゲーム、さらに探偵宣言という唯一の武器まで取り上げられて、とことんまで惨めを晒して。それでもなお、腹を見せながら私にじゃれ付いて媚びて見せて、私を笑わせることだけよゲロカス。」


「………ぁ、………ぁりがと…ぅ………。」
「………………………。」
「…ありがとう……。……私、……本気で戦います…。全力で戦いますから、………だから、……絶対お前をやっつけますからっ…、……だから、……もしも私に勝つ時は、………全力で、………叩き潰して下さい…。ぇっく……。………お願いだから、……塵一つ、……残さないで………。……ぅっく……!」
「…………………。………わかった。…だからお前も、俺に手加減するな。……これは最後のゲームなんだ。俺がベアトに、真実に至ったことを証明するための。……俺たちの勝敗はもはや、それを左右しない。だから、これは純粋に、好敵手と認めたお前と決着をつけたいという気持ちなんだ。………ゲームの上では敵として全てを疑え。だが、プレイヤー同士としては、信頼しろ。……それが、ゲームのマナーだ。」
「……はぃ……、……ありがとう……。………ありがとう……、……ぅぅうぅ……。」

 戦人は暗闇に去り、黄金蝶の群となって消える…。
 後には、さめざめと泣くヱリカが残されていた……。

 ……ぅううぅ…、……ひっく………。

 なァんて、…ね?

「チョロイもんです、馬鹿な男。……まんまと引っ掛かって、私にガムテープを渡しましたね…? ……この、…古戸ヱリカに、……ガムテープをッ…!!」
 直前までの弱々しく泣いていた人物と、この人物が、到底同じ人間とは思えない。……それくらいに、表情は醜悪に歪んでいた…。
 二人の魔女たちも、醜い笑顔でゲテゲテと笑う…。

「わかるわぁ~。ゲームマスターになるとね、つい神になった気がして、驕り高ぶっちゃうのよねぇ~。」
「………ラムダの時もそうだったわね。……歩く死体なんて、馬鹿なミスを放置するから負けるのよ。………馬鹿なゲームマスター、馬鹿なミス、馬鹿な驕りに、馬鹿な敗北、馬鹿戦人、馬鹿ばっか。くすくすくすくすくすくすくすくす!!」
「馬鹿な敗北、馬鹿戦人、馬鹿ばっか。あっはははは、何だか語呂がいいですっ。さすが我が主ですっ。くすくすくす! 馬鹿戦人、馬鹿ばっか、馬鹿戦人、馬鹿ばっか。」
「馬鹿戦人のヤツ、本気でヱリカが不利だと思ってるなら、本当にご愁傷様だわ。……馬鹿を殺すのに必要なのは探偵宣言じゃない。」
「豆腐の角?」
「絹ごしですねっ。」
「それにコチジャンを載せれば、ワインのつまみにぴったりだわ。くすくすくすくすくす!」
 3人はくすくすと笑い合う…。
 全て、戦人から封印のガムテープを得るための芝居…。
 前回、あれほど苦しめたガムテープを、せっかく今回は使えなくしたのに、……ヱリカたちの芝居に騙され、…… 3部屋分とはいえ、…それを許してしまう。
 ヱリカが圧倒的に不利であるかのような幻想は、全て芝居。
 ……戦人を騙し、封印のガムテープを譲歩させるための、罠。

「これで完璧に戦人を殺せます…! あいつのマヌケな密室など、とっくにネタは割れてるんですから…! 完璧な密室? ぶわぁああぁあぁかッ!! 私が、本当に完璧な密室ってヤツを、見せてさしあげますからッ! そのためのトドメの武器を、自ら進呈してくれるなんてッ、嬉しくて涙が出ます…! 我が主、そしてラムダデルタ卿…! お芝居へのご協力、誠にありがとうございますっ!」
「面白かったわー。礼には及ばないわよー。」
「……演技じゃないしね。くすくすくすくす。」
 ベルンカステルが、ちょっぴり気になることを言った気がするが、上機嫌なヱリカは気にしない。
 あの戦人の、さも自分はイイコトしましたッ、て感じのあンの顔!
 たっぷり後悔させてやりますとも、くっひっひっひ!!

「さあって! この封印、ゆっくりと使わせてもらいましょう…! ドラノールもお手柄でした。あんた、戦人に信頼されてるみたいだから、あんたが言うと、コロっと引っ掛かってくれますね。」
「………………………。」
「まさか、良心が痛むとか言い出しませんよね? 殺人人形の分際で。」
「…………イイエ。」
 ドラノールは、少しだけ寂しげにヱリカを見る。
 ……そして、小さく首を振ってから、厳しい目つきになり、戦人の消えた闇を見た。

「………手加減なしの真剣勝負と、わかっているはずナノニ…。………愚かなり、バトラ卿。これは間違いなく、あなたの驕りデス。」
 …………ミスター戦人、…これは、命取りデス……。


・「………ちょっとわかるわ。お兄ちゃんや朱志香お姉ちゃんみたいなタイプの人って、男女問わず誰とでも仲良くなれるタイプよね。……譲治お兄ちゃんには悪いけど、あまり紳士を振りかざし過ぎる人って、…ちょっと気持ち悪いわ。……童貞臭いって言うか、何というか…。」

・「………お兄ちゃんのばかっ。」


「……恋を語る話は、時を超えて尊い。いくら聞いても飽きぬでな。……もっとも、私には縁寿の、生娘らしい嫌悪の表情の方が愉快であるが…。」


・「第一歩ォ? 笑わせないでよ、あんたはね、まだ生まれてさえいないのよッ!! これはあんたを捕らえる私の巣じゃないわ。
……あんたを慈しんで育む、私の子宮の中なのよォぉおおおぉおおおぉ!!!」

・「じょ、………譲治……、……あんたは、………まだ、……そんなことを…ッ!!
 戻してあげるわ、母さんの子宮に!! そしてもう一度温かな海で、育て直してあげるッ!!!」

・「必要なのはやはり。母さんの子離れのようだね。
…………じゃあ、そろそろいいかな。」
 「な、何がよ?!」
 「“そろそろいいかな。 反撃しても”。」

・「ムエタイも習えば良かったのに! 譲治も一緒に習えば、もっと楽しかったわァ!!」
 「……そうだね。母さんと一緒に武道を学ぶ時が、一番楽しかったよ。」
 「なら今が一番楽しいんじゃない!! 楽しいね譲治ッ、楽しいね!!!」

・「えぇ、楽しいわ!! あなたは私の最愛の息子ッ、私のお腹の中でやさしくやさしく愛してあげるわ!! あなたがお腹を蹴るのさえ愛おしいッ!!」
「了解だ。だがその蹴りは、お腹の外からになるけどね。」

・「母さんももう歳なんだから。……いい加減、そういう、若い子向きの服は自重した方がいいんじゃないかな。」


・「よくもママを殺したなッ!! よぐもッ、ママをッ、殺ぢだなぁああぁあおおぉわぁあああぁあああああああああッ!!!」

・「よくもママをッ、ママをママをママをッ!! うごががががががくかかかげげごがぁあああアぁあああァああぁ!!!」

・「もう、……逃がさないよ……。……真里亞のママを奪った罪、………許さない…。
……殺す。…ママがみんなを殺したように、無慈悲に、殺すッ!!!」

・「………マリア。……ほどほどにね。」
 「うん、ほどほどに。……ママよりちょっとだけ、手加減するよ。
……くっひっひひひひっひ、はっははっはっははアっはっはははははははははひゃっはあぁあああぁあああああ!!!」

・「……くっくくくく、くっひひっひひひひひひひひひひひひひ!! そっか、この部屋は密室なんだね…。……きっひひひひひひひひひ! ベアトの魔法を否定する探偵気取りには丁度いいかもしれない。」

「………チェックメイトです、真里亞さま。……よろしいですか?」
「うんッ、いいよ!! 潰して! ……きっひひっひっひっひっひっひィ!!」
「それでは、これにて…!」


・「探偵権限のない私には、犠牲者たちが死んでいるのか、そのふりをしているのか、判別がつきません。ですから、それを確定させる必要がありました。……そしてそれは、出来ることなら。……彼らが大人しく駒置き場に退場してくれて、以後のゲームをおかしな形で掻き回さないでくれることが望ましいのです。」
「だから私は、慌しい屋敷内を駆け巡り、全ての現場を訪れ、全員を…………しっかりと、殺し直したのですッ。

・「………もちろん、殺し方も何でもいいわけじゃないわ。……赤き真実で死を断定できるほどに、完璧な殺し方でなくてはならない。……ヱリカはそれをしっかり踏まえて殺したわ。」
「殺す行為そのものは色々だけど、………その後に、殺した全員の頭部を完全に切断したわ。……これは、赤き真実に昇華するに充分な殺し方よね…? ラムダ……?」
「……ゆ、……………有効よ。…頭部を切断されて、………生き永らえる人間など、存在しない…!」
「か、返り血も浴びずに、何人もの頭部を切断なんて、……出来るんですか?!」
「例えば、厨房からゴミ用の大きなビニール袋を持ってきて、包丁をビニール越しに握ります。……そして、ビニールで死体全体を覆いながら作業すれば、返り血はほとんど防げます。」
 もちろん、包丁もビニールも人数分用意し、現場にそのまま捨てていきました。 下手に持ち歩いて、血ボタを廊下に走らせたり、自分の服を汚したりなんて無様な真似は一切しません。 現場には私の指紋のついたビニール等が残されているでしょうが、警察が来るまで物語が続かないこのゲームでは、何の物証にもなりませんから、捨てていって何の問題にもならない。

・「私が殺した5人全員は、……私が殺す瞬間まで、ちゃんと生きていました。……皆さん律儀に、殺される直前の瞬間まで、がんばって死んだふりをしていましたよ?
 ………真里亞さんが一番頑張り屋さんでした。………だってあの子、………同じ部屋で、先にお母さんが殺されてるってのに、ずっと気付かずに、死んだふりをしてたんですよ……? くす、くすくすくす、」
「はははは、あっははははははははは…ッ、ふっはっひゃっはっはっははああはああッ!!」

 ――悪魔だ。 これほどまでに、……魔女や悪魔が出てくる物語なのに、………本当の悪魔を、……初めて、……見る……。


・「………………これは、……地獄の生還者からの忠告よ。……この賑やかさを、よく楽しんでおきなさい。………あんたをムカつかせる悪口雑言さえ、……永遠の静寂の中では、正気を保つ温かな思い出になりうるんだから。 ………ベルンやヱリカが憎い? ならばそれはベルンたちの餞別よ。 ………憎しみがある限り、あなたは諦めずに済む。 諦めるってのはね、ここでは意味が違うのよ…? ………諦めて、……なお出られぬ地獄が永遠であることを、……今のうちから覚悟なさい。」

・「……私もね、…………たまにね、…あの恐怖が蘇るのよ。………私は本当に、……あの地獄を抜けられたのかしら、って。………実は、……私の心はとっくにおかしくなっていて、………あの地獄の中に未だ居ながら、………ここにこうして居て、楽しくあんたたちと話をしているという、妄想を見ているだけなのかもしれないと、………未だに悪夢に怯えさせられるの…。………だから私はこれが夢でないと、永遠に感じ続けていなきゃならないの…。……ねぇ……、あんたたちは、……本当に、………現実……? …未だに地獄の中にいて、……狂った私が見ている妄想じゃ……ないの……? ねぇ、………ねぇ……?」


・「はッ、はいッ、我が主…!! これほどの栄誉はありません…! そして、気に入りました、戦人との結婚ッ! ……くすくす、思えば、これほどの陵辱はないわけです! 何しろあのベアトリーチェは、戦人に尽くしたい、好かれたいという感情から生まれたらしいじゃないですか。そんな魔女が生み出した世界で私が、……戦人を、娶り、穢すッ、辱しめるッ!! くすくすくす、くっくくくくくくくくくく!! あぁ、わかります。恋焦がれる人を奪われる苦しみ、よぉくわかります!! 私はついに、それを与える側に回れたのですね…!! 光栄ですッ、これほどの栄誉はありませんッ!!」

・「出られませんよ、その密室は。………だって、あなたがあれほどに赤き真実を並べ、密室であることを示したのですから。だから安心して、永遠に閉じ込められていて下さい。……そうしている間に、……あなたの体は、私がたっぷりと辱しめて差し上げますから。………あなたとの寝室は鏡張りにしましょう。……あなたがどうやって辱しめられているか、……あなたの目にも、よぉく見えるようにです。…………くすくすくすくすくすくすくす!!」
そしてその部屋には天井に鳥篭を吊るしましょう。その中には、あなたの愛しの魔女、ベアトリーチェを閉じ込めておきましょう。ね……? ……素敵でしょう……? うっふふふふふふふふふふふふふふ!! あぁ、……わかるわ。こちら側はなんて、……甘美なのかしら…。…あっは、あっはははははははははははははは……。」


「これが、あの女の遺した指輪なんですよね……? うふ、ふふ…。……それを、私みたいな女に奪われるのって、……どんな気持ちですか……?」
「………ち……ろ………。」
「はい? 聞こえません。もう一度お願いします。」
「……地獄へ、………落ちろ………。」
「なぁんだ。それならご安心を、戦人さん。」

 ヱリカは、戦人の耳たぶを食むように、……唇を近付け、……ここがどこか教える。

「……ここが、そこですよ。くす………。」


「この指輪は、あなたの身も心も魂も、……全てを永遠に閉じ込めます。……そしてあなたは永遠に生きた人形…。………死ぬことも許しません。……私に永遠に、穢され、辱しめられ、……私が勝利の美酒の味を忘れる度に、……あなたはその身を以って、私にそれを思い出させるのです。………何度も、………何度もね……。……舌が噛めるなら、今の内にどうぞ…。……指輪が通れば、……それすらも出来なくなりますから。」


・「ぃ……ぃや……め………ろ……………、」
「ダメです。……ほら、……指、………入れますよ……?」
「ぎ、……ぐぐ、……い、……痛ぇ……うぐぐ…ぐ…ッ、」
・「痛ぇ……、……ッ、………ッッ…。……む…、無理…、……そんなの、……入るわけ………、」
「……大丈夫です。……入りますから、………ちゃぁんと…。」
 ヱリカは淫靡に笑いながら、……口から銀の糸を垂らしながら、……指輪と指を濡らす。
「……力を抜いて下さい。一気に奥まで、……入れちゃいますから…。…無駄な抵抗なんかしないで下さい。……抵抗しない方が……痛くないですよ…?………ほら、……ぬめって、入るようになった……。」
「ぃや、……ぁ、………あ………ッ、……ッ……ッ、」
 ゆっくりとゆっくりと、……深く、深く、……戦人の指が、指輪を貫いていく。
 二度と抜けることない、苦痛と屈辱の鉄環を、辱しめられながら入れられていく…。
「ぉ、……が、………、……………かは……ッ……、」
「……ほぉら、……見て下さい…? ……一番、奥まで入りましたよ……?」
「…痛…い、……痛…い、……ぐ、……抜…い……て……、」
・「……さぁ。………一番奥まで入れたまま、……最後の仕上げですよ…? これでもう、……あなたは永遠に、……私のもの……。」
・「ぃ……、……ぃゃ……、…ゃ……めて…………、」
「いいですよ。……許して下さい、ヱリカさまって言えたら、やめてあげます。」
「…………ほ、……ほんと……に………、」
「“お許し下さい、ヱリカさま。生涯を犬として扱われ、首輪に繋がれて生きることを誓いますから、この指輪だけはお許し下さい”って。……そう言えたら、この指輪だけは許してあげます。」
「……ゆ、………ゅ、…………許…………………、」
「……ハぁイ…? ……よく聞こえませんよぅ……?」
・「………やはり。あなたは飼い慣らせない犬って感じです。でも、そこがいい。」
 ヱリカはにこやかに微笑む。……そして指輪のダイヤを弾いた。 その途端、………戦人は声にならぬ絶叫を上げて、……仰け反った……。
「ぐ、………が……ぁ………………ぁぁ……ッッッ!!!」


・「コミケの申込書も、それがあると落ちるって噂があるにぇ。」
 「と、都市伝説ですッ。………多分。」

・「嫁を奪いに襲撃なんて燃えるにぇ。」
 「410、嫁じゃないです、婿ですっ。」
 「嫁であってるにぇ。にっひひひひ……。」


「あぁ、ゼパル!! 何なの、大切なお知らせって?!」
「聞いてくれ、フルフル! 僕たちのイメージソングがCDになって登場するんだ!」
「ウッソだぁああああああああッ?!」
「「ウッソぽ~ん! あっははははははははははは。」」


「今までありがとう。………君という弟に出会えて、楽しかった。」
「……僕を僕であらせてくれて、ありがとう。……灰色の世界に、彩を見せてくれて、ありがとう。」

「どうして、……私たちは生まれたんだろうね。」
「生まれた時、すぐに死ねればよかったんだ。」
「……それは、お父さんの罪だね。」
「そうさ。だからあいつも死ね。みんな死ね。」

「うん。みんな死ぬよ。もうすぐね。……そして、すぐにみんな蘇って会えるよ。もう私たちは、籠の中の小鳥じゃない。」
「……僕たちはようやく籠を出て、……それぞれの世界へ羽ばたけるんだ。」
「君と、もっと早くこうして、……決闘をすれば良かったね。」
「……それがきっと、今日なのさ。」
「うん。今日だね。」
「1986年、10月5日。……運命の日。」
「私たちの、どちらかが、死ぬ。」
「……あるいは、同時に撃ち合って、二人とも死ぬよ。」
「あ、それもありか。………それでも全然ありだね。」
「そうさ。それであっても、必ず僕らの恋は、成就されるのだから。」
「………決闘の必要、……あったのかな。」
「あったさ。姉さんも言ってるよ。……僕たちはいずれにせよ、……もっと早くに決闘するべきだった。」
「そうだね。……私にとって、君は、」
「僕にとって、姉さんは、」

「「もう邪魔なのだから。」」


「悲しまないで。私たちはすぐに、黄金郷で会えるよ。」
「僕たちはもっと早く、こうするべきだったね。」
「そうすれば、……再会しなくて済むのにね。」
「いいさ。この決闘さえも、もはや今日という日の前には、ただの茶番さ。」
「そうだね…。どうせ蘇る黄金郷の前には、本当にただの茶番。」

「じゃあ、後ほど。」
「うん。後ほど。」
「さようなら。」


・お聞きなさい。

 私はあなたに、右代宮戦人に恋する心を、譲ります。
 あなたは、右代宮戦人の望む女性となりなさい。

 あなたに、彼が望む、黄金の髪を。
 あなたに、彼が望む、蒼い瞳を。
 あなたに、彼が望む、彼に相応しい性格を。

 そして、……私の代わりに恋をしなさい。
 そして、許されるなら、彼に恋されなさい。

 私には、………もう彼を愛することが、出来ないのです。

 どうか、私には遂げられなかった想いを、……私には堪えられなかった想いを、
 ……あなたが遂げて。

・あなたは今日より、私ではなくなります。
 私は今日より、あなたではなくなります。
 私たちは一つの魂を割いて、分け合おう。
 それは一つの魂には当然満たないけれど。
 きっと人より多くの夢を見させてくれる。

 私たちに、祝福あれ………。

 私の可愛い、ベアトリーチェ………。

 誰にもあなたの姿は見えないけれど。
 でも私にだけはあなたが見えるよ。
 そしてあなたも色々な人に愛されれば。
 きっとみんなにも姿が見えるようになっていく。

 愛があれば、私たちは視えるよ……。


「やれやれ……。いいかい、ベアトリーチェ………一度しか教えないよ。魔女ってのはね。」
「魔女ってのは………?」

 魔女ってのは。

「謎を解かされる側じゃない。」
「……謎を、解かされる側じゃ、……ない……?」
「あぁ、そうさ。どうして魔女が、誰かの謎で頭を抱えてるんだい? ……頭を抱えるのは、魔女の仕事じゃないだろう?」
「じゃ、……じゃあ、……魔女の……仕事は……?」

「僕の知ってる黄金の魔女、ベアトリーチェというのは。……とびっきりの魔法で、誰にもわからない難問を生み出して、煙に巻いて嘲笑ってやるヤツを言うんだ。………誰にもわからない最悪の謎を作って、徹底的に煙に巻いて、扱き下ろしてやれ。相手に出された謎で頭を抱えるのはね、君じゃない。君の相手の仕事さ。」
「悩むのは、……私の相手の仕事………、」
「右代宮戦人をどうやって密室から出すかを悩むんじゃない。……チェーンロックの密室? 馬鹿馬鹿しいね。……なら君は、そんなのより、もっともっと飛びっきりの、最高の密室を作ってやって、あいつらを悩ませてやろうじゃないか。………僕も手を貸すよ。」
「悩むのは、……私じゃなくて……。」
「あいつらの方さ。地獄の悪魔も平伏して絶句する、最悪の密室トリックを無限に使いこなす、無限の魔女ベアトリーチェの本当の恐ろしさを、そろそろ連中も思い出してもいい頃だ…!」
「………戦人さんの、密室よりも、………最悪の密室…。」
「僕らはもう、それを手に入れてるじゃないか。」
「最…悪……の、………密…室………。」
 ………ぁ…。
 ベアトの脳裏に、………屋敷の、ゲストハウスの、薔薇庭園の、……図面が次々に蘇っていく……。

 トリック。錯誤。誘導。
 からかう。引っ掛ける。一緒に笑う。
 ……こんなトリックを知ってますか…?
 前に読んだ本に、こんなトリックが……。

 ベアトの瞳が、どんどん見開かれていく……。
 そこには無数の光が、渦を巻いて飲み込まれていく。

「あともう一個。」
「……な、何です…?」
「それ、密室の魔女の喋り方には、相応しくないな。」
「やっぱり、私は……、」
「妾でなくっちゃ。」


………そして、……二度と訪れることのない、懐かしき右代宮家での日々を回想しながら、……再び走る。
 戦人の客室を目指して。
 使用人室の前を抜け、玄関ホールを抜け、客間の扉の前を駆け抜ける。
 そして見えてくる厨房への扉や食堂の扉…。
 全てが、全てが懐かしい。

 ……金蔵に直接仕えることを許された名誉と、厳しさ。
 しかし彼は、その全ての時間が厳しかったわけではない。
 ……その威厳を保って見せねばならない家族の姿がない時、信じられないくらい子供っぽい顔を見せて、おかしな悪戯の片棒を頼んできたりするのだ。 ………お館様に、銃を色々撃たせてもらったっけ。 …あれ、……結構、面白かったな。

 旦那様は、案外やさしい人だった。
 僕が普段、よっぽどお館様にいじめられてると思い込んでいたんだろう。
 僕しか姿がない時には、まるでクラスメートに話し掛けるように、親しげに話しかけてくれたっけ。 ……僕が遠慮して、相槌しか打たなかったことが、少しだけ心残りだ…。

 奥様はとにかく厳しい人だったな…。
 ……女の使用人には特に厳しかったけど、男の使用人には甘いとの陰口を聞いてしまってからは、僕を目の敵にしていた気がする。 でも、奥様も可哀想な人だった。 ……彼女がひとりの時、その肩を辛そうに下げているのを、僕は何度も見ているのだから。

大勢の使用人がいたっけ。
 ……短い間だったり、長い間だったり。
 源次さまは、僕が父と呼べる唯一の人。
 ……感謝も恨みもいっぱいある。
 ……もう全部混ぜこぜで、それらは相殺されてゼロの感情になった。

 熊沢さんは、ならば母と呼べる人だった。
 ……あの人には色々なことを助けてもらった。
 いつか恩を返そうと思って、……とうとうその機会を永遠に失ってしまった。
 紗音は、………僕の姉さん。
 彼女がいなかったら、僕は僕たりえなかった。
 僕に海が青いことを教えてくれて、ありがとう……。

 ……郷田? ………あいつは嫌いだ。
 でも、まかないのシチューを褒めたら、顔を赤くしながらおかわりもあるなんて言い出した単純なところは、……嫌いじゃなかったかもしれない。

 食堂の前を駆け抜けるだけのわずかの時間に、どうしてこれほどに濃密な記憶が。

 そして、……朱志香の記憶。

 ……へぇ。……お、男の子の使用人なんだ…。……君、……いくつ…?

 それが、彼女と最初に交わした言葉だった気がする。
 ……思えば、その時から彼女は僕に興味を持ってくれていたんだと思う。
 彼女とは、……譲治さまと紗音の二人に負けないくらいの愛を築く時間が、本当はあったんだ。
 なのに、灰色の海しか僕が見えなかったから、その時間のほとんど全てを失った。
 彼女は僕の何が好きなのか。
 僕は彼女の何が好きなのか。
 それさえも、はっきりさせることが出来なかった気がする。
 ……いいや、彼女は言っていた。
 それを知るために、もっと近付きあうのもいいんじゃないかって。
 ……恋の理由なんて、後でも良かったんだ。
 ……それに気付くのが僕は余りに、遅い。

 ………今なら、少し納得できるよ。
 どうして紗音が決闘に勝ったか。
 神様はちゃんと見てる。
 僕よりはるかに勇気を持っていた君を、神様はお見捨てにならなかったんだ……。


「……おや、これはこれは…、てっきりご欠席かと思っていましたよ…?」
「………………………………。」

 長い長い赤絨毯の、最果て同士が、対峙する。
 しかし、その間には数十人のシエスタ儀仗兵が立ちはだかっている…。

「最高の来賓であるあなたがお越しにならないのでッ!! ご心配申し上げておりましたとも! でもせめて披露宴には間に合ってよかった……!!」
「…………ふっ、………ふっふふふふふふふふふふふ…。」

 ベアトが、……笑う……。
 そのくぐもった笑いに、………戦人の瞳がわずかに震えた。

「お、……お前は………………。」

「……待たせたなァ? 古戸ヱリカァ。……祝福に来たぜェえええぇえぇ…?」

 ぞおッと! 全身の毛が逆立つ気さえする、その圧倒的に威圧的かつ、……邪悪な貫禄。

 もう身元の称号などが必要だろうか?
 その圧倒的貫禄を、誰が見間違うと言うのか。

「べ、……ベアトリぃいいいぃチェぇえええええぇええええええッ!!!」
「“地獄で会おうぜ”は、妾の好む別れの挨拶言葉であるが、」
「身元確認っ。大ベアトリーチェ卿と確認ッ!!」

「まさにここがそうだぜ、古戸ヱリカぁあぁああぁあああああああぁあぁあぁ!!!」


「………………あなたは、主の命令ない限り動くことは許されマセン。」
「…………く…………。」
「主って誰よ…!」
「馬鹿ね、ヱリカのヤツってことになってるでしょ…!」
「違うわよ、私たちの主は戦人さまだわ!」
「そうだ。ヱリカはその代理に過ぎない。」
「そうよ、お姉様ッ、私たちは誰の家具?!」

「美味し過ぎるわ、つまみ食いしちゃおう!!」

 赤い絶対の壁が一瞬だけ明滅する。
 ベルゼブブの杭がガートルードの肩に突き刺さり、その集中を欠いたためだ。
 ……しかし破れない。
 ガートルードは無表情に、ゆっくりとルシファーを見据える。

「……誰の命令なりや。ヱリカ卿にその指示は無きなりと知り給え。」
「あるわ。
…わ、…我らが主の命令よ!!」

「……………………………。」

「物言えぬ主に、何を命令できるというなりや…。」
「物、聞かずとも…。……それを察するが家具の道と見つけたりッ!!」


「面白い、…………じゃないですか……。」
「…………………………。」

 ヱリカの顔に叩き付けられ、床に落ちて転がるのは、………ロノウェより預かった、……白い手袋だった。
 手袋を叩き付ける行為は、たった一つのことしか意味しない。
 それは………、

「あぁ、ゼパル! これは何?! どういう意味なの?!」
「これは、……決闘の申し込みさ!! 手袋を拾えば、それを受け入れることを意味する!」
「拾わなければシエスタたちが殺してくれるわ? 拾う必要ないじゃない!」
「拾わなくてもいいさ。……でも、決闘を逃げた汚名を、僕らと参列の悪魔諸兄は、三界全てに知らしめるだろうね…!!」

「「恋の決闘を逃げた臆病者の名を、永遠にねッ!!!」」

 ベアトリーチェは、毅然と、悠然と待つ。
 もしヱリカが、それを拾わず足蹴にでもすれば。
 ……その瞬間。…シエスタたちは一斉に発砲し、ベアトを、彼女の影を形のした金色の刺繍模様に変えてしまうだろう。
 だから、ヱリカには拾う義理がない。
 しかし、……彼女は拾うことを怯えてはならないのだ。
 なぜなら、……彼女は密室トリックとロジックを打ち破った、真の勝者なのだから。
 勝者ならば、何も怯える必要はない。
 だからもし、……それを怯えるというのならそれは、……自分の勝利に未だ、一抹の不安と疑いを持っていることの、証となる……。

「………………拾わなければ。私はこの衣装を汚すことなく、あんたを殺してしまえますね。」
「それも披露宴の余興には面白い。……だが、そなたは拾うさ。
「へぇ、………どうしてです…?」
「……妾が、そなたにぴったりの、最高の土産を持ってきたからだ。……そなたはそれが知りたい。……だから、拾うさ。」
「興味ないです。さようなら。」
「……拾うさ。……妾が持ってきた、………戦人の客室など下らぬ、……もっと、シンプルで単純で、……絶対に解けぬ密室を、……そなたは聞きたいはずさ。」
「…………絶対、解けぬ、………密室…ぅ………?」
「……そなたは、妾の挑戦を受けたいはずさ。………なぜなら。」
「……………………………。」
「そなたは、」
                        探偵だからだ。

 ヱリカは花嫁衣裳を、マントのように脱ぎ捨てる……。
 そう。彼女は花嫁でも駒でも魔女でもある前に。
 それらの何よりも一番最初に、

「私は、探偵です。
………あなたを、私の対戦相手に認めます。ただ、…あなたはこのゲームに登場する資格を? ロジックエラーは修正できたんでしょうね…?」
「その手袋を拾えば、そなたとの戦いの中で、それが修正できたことを証明しようぞ。」
「………………………………。」
「………………………。」
「グッド!!」

 おおおぉ!!

 大聖堂がざわめく。……ヱリカが、……手袋を拾ったのだ。

 決闘だ! 決闘だ!!
 大聖堂は奇妙な興奮に包まれる。
 ヱリカが頷くと、ドラノールはそれを察し、二人の残して、参列者たちの群を遠ざける。
 ……二人の決闘に立会人は許される。
 しかし、邪魔立てすることは、何人たりとも許されはしない…!


「思えばそなたは、前回の寝惚けた妾しか知らんのだったなぁ…? どうだぁ、ヱリカぁ?……これが、黄金の魔女の、ゲームだぜェええぇええぇ…???」
「馬鹿な…、……ま、……魔法で、……嘉音が部屋を抜け出したって言うの……?! ぐ、……く…。……そ、それより、どうして銃を弾くなんて甘い真似を…!!」
「人間側は魔女の謎を全て打ち砕き、魔女側は人間側の推理を1つ打ち砕けばいい。……これではアンフェアだろォ? だから、妾も同じにすることにした。」
「……お、……同じぃいいぃ……?」
「妾も、そなたの推理を全て打ち砕いて勝利することにした。……嘉音脱出の謎は妾の勝ちだが、もう一つ! 戦人に辛酸を舐めさせた最初の戦場に、戻ろうぞ!!」

 ベアトが指を弾くと、あの戦人の客室が再構築される。
 ロジックエラーを強いたあの部屋で、再度戦い、今度こそ決着をつけようというのだ。

「ヱリカ、拾え、銃を。……この部屋を、お前の棺桶にしてくれるわ!」
「………その言葉、そっくりお返しします!! 私にチャンスを与えたことを、……後悔させてやりますッ!!」


「………………………。……あんたが前回のゲームの時。……私がボロクソに負けたのに庇ってくれた時。……嬉しかった。私、生まれてから誰かに庇われたのって、あれが初めてだった。……我が主にさえ、私は庇われたことがない。私が主に与えられたのは、……暴かれた真実には、暴き返すことで自分の痛みを打ち消すという、傷つけ合いの仕方だけでした。」
「…………………。……傲慢を、お許し下サイ。……私は、守らねばと思いマシタ。……あなたがどんなか弱い真実で生き、それをよりもっともらしい虚実の横暴で虐げられてきたか、察した時。……あなたを、守りたいと思いマシタ。」
「ありがとう。………短い間だったけど、あんたは最高のパートナーでした。」
「これからもデス。」
「……そうですね。あいつを倒したら、あんたと一緒に、この島でいっぱいミステリーを作りましょう。そして、それをあんたに出題して、いじめて遊ぶ。……どうです?」
「……気に入りマシタ。あなたの挑戦、楽しみにしてイマス。」
「あ、ウソごめん。今の撤回です。……こーゆうの、負けフラグって言うんでしょ?」
「ふ、」

「「くすくすくすくす、あははははは。」」


「「勝者ッ、………ベアトリーチェ!!!」」

 お、……ぅおおおおおおおおおおおぉおおおおおおおおお!!
 参列者たちの歓声。
 万歳さえ隠さないワルギリアたち。
 跳び上がって喜ぶ七姉妹たち…!

 そして、二人の悪魔の決着宣言と同時に、ゆっくりと崩れ落ちるヱリカの指の当主の指輪と、戦人の指の呪いの指輪が砕け散る。

 それと同時に、戦人は激しく咽込む。
 戦人の意識が、戻ってきたのだ…!
「戦人ぁあああぁあああああ!! 戦人さぁああああああん!!!」

 ベアトは咳き込む戦人に歓喜して飛びつく。
 さらにワルギリアやガァプやロノウェも。七姉妹たちもみんなみんな飛びついて歓喜する。

「……へ、……へへっ、……酷ぇトリックだ…。こんなので通ると思ってんのか……? こんなトリックじゃ、またニンゲンどもが、こんなのミステリーじゃねーって、騒ぎ出すぜ……。」
「いいえ、立派なトリックです! 愛がない人には視えないんです…! ……戦人さん…、………戦人さん……、わぁああああぁあぁぁぁぁぁ…ッ!!!」

「ヱリカ卿ッ、ヱリカ卿!! 誰か手当てヲッ、早くデス!!」
 ……ヱリカの胸の、血の薔薇が花を開くのを止められない……。
「……第3度概念否定症、……存続系中和剤は不可、大至急の再誕承認でのみ中和可能。……駒の主の再誕承認が必要なりや…。」
「ベ、ベルンカステル卿、再誕のご許可ヲ!!
 ……ベルンカステル卿…?! ど、どちらニ…?!」
「式典警備隊に捜索要請ッ、ベルンカステル卿を探し給え…!!」

「了解でありますッ。オールシエスタ、データリンク、捜索体制…!」
「……ひ、卑劣ッ、……主が、……駒の決闘を見届けないなんて、………卑劣が過ぎると知れッ!!!」

 ドラノールに抱きかかえられているヱリカは、すでに主の姿がないことを知り、……寂しいとは思わなかった。
 むしろ、最期の最後まで、……ひどい言葉で詰られずに済むことに安堵する…。

「「神と悪魔たちよ。彼女の高潔なる散り際を、どうか語り継ぎたまえ。」」

「……高潔…? ……はッ、………悪役ってのは、きっちり無様に散って、主賓を盛り上げなきゃです…。………ぐ、くくッ、………は、はは…、」

 もう私は誰かの駒じゃない。
 ……私はやっと、私の役を全うできる…!!

「ヱ、ヱリカ卿…!! うッ、動いてはいけマセン…!!」

「……下がりなさい…。……下がれぇええええぇえええ!!」

 ヱリカが、生命の限りを尽くした叫びをあげると、……ヱリカを取り囲む人々は気圧されて尻餅をつく…。

「私は、……真実の魔女、古戸ヱリカ……。……真実の魔女とは、……真実に堪える魔女、………です。……私はようやく、……自分の本当の真実を、……受け入れられそうなんです………。」

 概念否定の毒が全身を駆け巡る。……視界がもうぼやけ始めてる。
 その歪んだ視界の向こうには、……肩を抱き合い、こちらを見る、ベアトと戦人の姿が……。
 その表情は、毅然としたものだった。
 ……それでいい。
 情けも哀れみも、私をよりみすぼらしくするだけだ。
 ……敗者にとって、その表情が一番、……救われるのだ…。

「ヱリカ卿…!! もう決闘は終わっていマス…!!」
「終わってないんだ。」
「死が二人を別つまで。」
「「誰にも、彼女の散り際を、穢せない。」」
 ドラノールは、両肩を二人の悪魔に掴まれ、引き止められる…。

 ヱリカは、血を滴らせながら、……肩で息をしながら、…歪な足取りで、……それでもなお、ベアトと戦人のところを目指した…。
 彼女の滴らす血は、落ちると、黄金の花びらに代わり、舞い散る。……だから彼女の歩く姿は、……あまりに神々しくて、……美しかった。
 決闘は、どちらかが死ぬまで終わらない。
 だからもう決したにもかかわらず、……終わっていない。
 ベアトたちは、取り巻く人々を下がらせ、……二人で前へ歩み出て、…高潔なる敗者と対峙する…。

「…………………ヱリカ…。」
「……復活おめでとうございます。あんた、女難の相を持ってますよ。……ロクな女に、好かれやしない……。」
「………そうだな。……俺もロクな女に惚れねぇな。」
「ベアト。……いいえ、あんたたちに頼みが。」
「…………もう一太刀を、望むのですか…。」
「………………………………。」
「…………ヱリカ……。」
「……受けようぞ。……そなたの高潔なる申し出を、断る無粋を妾たちは持たぬ。」
「ありがとう。」

「私は、……なぜ、……何の力にもなれず、……ココニ……。」
「……見届けなさい。それが、親友の仕事でしょ…。」

「………最後に、……自己紹介しとこうと…、……思いまして……。」
 この期に及んで、何を……?
 誰にもヱリカの込めた赤い真実の想像がつかない…。

「…………ベアト。……いいのか。」
「……………………。……はい。構いません…。」
「……わかった。………………………。」
「せめて、最後の引き金は一緒に。」
「……わかってるぜ……。」
 戦人は、ベアトの引き金に掛ける指の上に、自らの手を重ねる…。
「……戦人さん。……会えて、よかった。」
「俺たちは、……永遠に、ずっと一緒だ。」

「あっはッ、イチャイチャと見せ付けてくれます!! イラついて来てたんです。……やっぱお涙で退場は私の好みじゃないです。」

 ……やっぱッ、悪役は最期の最後までこういうツラでなきゃア!!

「……いい面構えだぜ。……お前との結婚生活も、反吐が出るくらい楽しかったかもな。」
「当然です。毎日仰け反らせまくって、ベアトさんなんか忘れさせてあげるくらいの、快楽の世界に閉じ込めてあげたのにィいぃ。」
「ははん。お前如き小娘、戦人を虜にするにはまだ千年早いわ。」
「あぁ、あんたの顔も、それが一番キュートです。……お互い、最期はこういう顔がいいですよね!!」
「………来い。」

「これがッ、探偵、古戸ヱリカの最後の捨て台詞ッ、そして自己紹介です!!」

 ヱリカはくるりとロンドを踊りながら、華麗に優美に、……血と黄金の花びらを散らしながら舞って、銃を構える。

初めまして、こんにちは!探偵ッ、古戸ヱリカと申します!!招かれざる客人ですが、どうか歓迎を!!

我こそは来訪者ッ、六軒島の18人目の人間ッ!!!

「…………申し訳ないが、」

そなたを迎えても、
「「17人だ。」」


「……紅茶を飲むなら、」

「「バケモノ同士に限るわ」」